短鎖脂肪酸とは?
腸活といえば「食物繊維」をイメージされる方が多いのではないでしょうか?
ではなぜ食物繊維を摂ることが腸活につながるのでしょうか?
そこでカギになるのが、今回紹介する「短鎖脂肪酸」です。
短鎖脂肪酸は主に大腸で腸内細菌によって作られる物質です。
代表的なものには酢酸・プロピオン酸・酪酸があります。
短鎖脂肪酸は単なる腸内細菌の代謝産物にとどまりません。腸の細胞のエネルギー源になったり、腸管バリアや免疫などに関わり、私たちの体にさまざまな影響を及ぼします。[1]
つまり
「私たちが食べたもの」→「腸内細菌」→「私たちの体」をつなぐ重要な役割を果たしているのが短鎖脂肪酸なのです。
短鎖脂肪酸はどうやって作られる?
私たちが食べた食物繊維の一部は、小腸で消化・吸収されずに大腸まで届きます。
そこで活躍するのが腸内細菌です。
腸内細菌は大腸まで届いた食物繊維などを利用(発酵)して、その過程で酢酸・プロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸を作ります。ただし食物繊維なら何でもよいというわけではありません。
食物繊維の種類によって発酵されやすさが変わったり、さらに腸内細菌の種類や構成によっても作られる短鎖脂肪酸の量や種類が変わります。(食物繊維について詳しく知りたい方はこちら→「食物繊維とは?」)

では腸内細菌によって作られた短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸)にはどのような特徴があるのか、次の章で見ていきましょう。
代表的な3つの短鎖脂肪酸
短鎖脂肪酸にはいくつか種類がありますが、人の大腸で主に作られるのは酢酸・プロピオン酸・酪酸です。
同じ短鎖脂肪酸でも作られる量や体内での使われ方には違いがあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
①酢酸|最も多く作られる短鎖脂肪酸
酢酸(acetate)は大腸で作られる主要な短鎖脂肪酸の中でも、最も多く存在します。
大腸で作られた酢酸は血液を介して全身に運ばれ、さまざまな組織で利用されます。
また酢酸の一部は腸内細菌によって利用され、酪酸を作る材料になることもあります。[2]
②プロピオン酸|主に肝臓で利用される
プロピオン酸(propionate)も腸内細菌によって作られる代表的な短鎖脂肪酸です。
大腸で作られたプロピオン酸は門脈を通って肝臓へ運ばれ、その大部分が肝臓で利用されます。[3]
③酪酸|大腸の細胞にとって重要なエネルギー源
酪酸(butyrate)は大腸上皮細胞のエネルギー源として利用される重要な短鎖脂肪酸です。
大腸で作られた酪酸の多くは、大腸上皮細胞で利用されます。[4]さらに大腸で利用されず門脈へ出た酪酸はその多くが肝臓で取り込まれ利用されることがヒトを対象とした研究で示されています。[3]
短鎖脂肪酸はなぜ腸活にいいの?
これまで短鎖脂肪酸がどのように作られ、体内でどのように利用されるか見てきました。
ではなぜ短鎖脂肪酸が「腸活」において重要なのでしょうか?
短鎖脂肪酸にはいろんな働きがありますが、ここでは腸内環境を考える上で特に重要な3つの働きを紹介します。
①大腸上皮細胞のエネルギー源になる
短鎖脂肪酸の中でも酪酸は大腸上皮細胞にとって重要なエネルギー源です。
腸内細菌が作った酪酸を大腸上皮細胞が利用することで、腸の細胞のエネルギー代謝を支えています。
②腸管バリアの維持に関わる
腸の内側を覆う腸上皮は必要な栄養を取り込むのと同時に、細菌などの有害な物質が体内に入り込むのを防ぐ「バリア」としての機能も果たしています。
そして短鎖脂肪酸はこの腸管バリア機能の調節に関わっていることがわかっています。[5]特に酪酸は腸上皮細胞の機能やタイトジャンクションなどに作用し、腸管バリアの維持に関わることが研究されています。
③免疫機能の調節に関わる
腸は食べ物や細菌などの外来物質と接する場所であり、免疫機能にも深く関わっています。
短鎖脂肪酸は腸の免疫細胞に作用し、免疫反応の調節に関わることがわかっています。
中でも酪酸と免疫反応を抑える役割をもつ「制御性T細胞(Treg)」との関係が研究されており、マウスを用いた研究では、腸内細菌によって作られた酪酸が大腸の制御性T細胞の分化を促すことが示されています。[6]
短鎖脂肪酸を増やすには?
【結論】→→→発酵されやすい食物繊維を摂る
短鎖脂肪酸は、腸内細菌が食物繊維などを発酵することで作られます。
そのため、短鎖脂肪酸の産生を促すためには、食事で腸内細菌のエサとなる発酵性の食品成分を摂ることが基本になります。
食物繊維の種類や構造・摂取量さらには腸内細菌の構成などによっても、短鎖脂肪酸の産生の度合いは変わってきます。[7]
具体的に言えば、イヌリンやβ-グルカンなどの発酵されやすい食物繊維、レジスタントスターチ(難消化でんぶん)などを含む食品を日々の食事に取り入れていくことを意識してみましょう。[8]
短鎖脂肪酸は腸管バリアや免疫機能の調節など様々な役割を担っています。
では短鎖脂肪酸は増やせば増やすほど健康によいのでしょうか?
現時点では、「短鎖脂肪酸を増やせば増やすほど健康効果も大きくなる」とまでは断言できません。
なぜならヒトの腸内の短鎖脂肪酸の“産生量”を正確に評価することが難しいからです。短鎖脂肪酸は大腸で作られたあと、その多くが腸管から吸収・利用されます。そのため、便中の短鎖脂肪酸濃度だけを見ても腸内でどれだけ作られたかを正確に判断することはできません。[9]
短鎖脂肪酸に関しては「とにかく量を増やす」ことよりも食物繊維などを含むバランスのよい食事を通して、「腸内細菌が短鎖脂肪酸を作れる環境を整える」ことが大切だと考えます。
今日からできること
①主食を少し変えてみる
白米にもち麦や大麦などを混ぜて、主食からも発酵されやすい食物繊維を補いましょう。
またご飯に含まれるでんぷんは加熱後に冷ますことで「レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」となります。
一度冷ましたものを温めなおして食べてもOKです。
②豆類・野菜などを「1品」足す
短鎖脂肪酸の材料となる発酵性の炭水化物はさまざまな食品に含まれます。
豆類、野菜、果物、穀類などの植物性食品を普段の食事に1品プラスするところから始めてみましょう。
食物繊維の種類や摂り方については「食物繊維とは?」の記事でも詳しく紹介しています。
③少しずつが肝心
早く効果を実感したいからといっていきなり大量の食物繊維を摂る必要はありません。
普段、食物繊維をあまり摂っていない人が急に増やすと、かえってお腹の張りやガスなどの消化器症状が出ることがあります。
まずはいつもの食事に「1品」足すくらいから始めてみましょう。
まとめ
- 短鎖脂肪酸は腸内細菌が食物繊維などを発酵することで作られる。
- 代表的な短鎖脂肪酸は「酢酸・プロピオン酸・酪酸」の3種類で、それぞれ体内での役割が異なる。
- 短鎖脂肪酸は大腸上皮細胞のエネルギー源となり、腸管バリアや免疫機能の調節にも関わる。
- 短鎖脂肪酸の産生を促すには食物繊維などの発酵されやすい炭水化物を普段の食事に摂り入れることが重要です。
腸活というと「どんな菌を増やせばいいか?」と腸内細菌そのものに目が向きがちです。
しかし大事なのは腸内細菌が私たちの食べたものから「何を作っているのか」という視点です。
その代表的なものが今回紹介した短鎖脂肪酸です。
まずはいつもの食事に食物繊維を含む食品を「1品」足すところから始めてみましょう。
②Duncan SH, et al. Contribution of acetate to butyrate formation by human faecal bacteria. Br J Nutr. 2004. PMID: 15182395.
③Bloemen JG, et al. Short chain fatty acids exchange across the gut and liver in humans measured at surgery. Clin Nutr. 2009. PMID: 19523724.
④Donohoe DR, et al. The Microbiome and Butyrate Regulate Energy Metabolism and Autophagy in the Mammalian Colon. Cell Metab. 2011. PMID: 21531334.
⑤Mann ER, Lam YK, Uhlig HH. Short-chain fatty acids: linking diet, the microbiome and immunity. Nat Rev Immunol. 2024. PMID: 38565643.


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