私たちの腸内に生息する腸内細菌たち。
私たちが食べたものを利用し、いろんな物質を作り出しながら腸内で複雑な生態系を作っている…
腸内細菌とは?
「健康な腸内細菌叢」とは?→万人に共通する正解があるわけではない
健康な腸内細菌叢を考える上で、食事や地理、人種、年齢、生活習慣、薬剤など様々な要因を考慮する必要があり、健康な人同士の間にも違いがあります。
「健康な腸内細菌叢」とは万人に共通するひとつの“型”があるわけではなく、
食事や年齢・生活習慣など、その人の背景も含めて考えていく必要があります。[1]
腸内細菌は何してる?
腸内細菌は、ただ腸の中に住んでいるだけではありません。
私たちが消化・吸収しきれなかった食物成分を利用し、様々な物質をつくり、私たちの体と関わっています。
代表的な3つの働きを見てみましょう。
①食物繊維などを発酵する
私たちの消化酵素では分解されにくい食物繊維などの一部は大腸まで届き、腸内細菌によって利用されます。
その過程で作られるのが酢酸・プロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸です。(→「短鎖脂肪酸とは?」の記事はこちら)
②さまざまな物質を作る・変換する
腸内細菌が作り出すのは短鎖脂肪酸だけではありません。
食事由来の成分や、私たちの体から腸内へ分泌された成分などを利用・変換し、ビタミン類・胆汁酸やアミノ酸に由来する代謝物などさまざまな物質の産生・変換に関わっています。
③腸のバリアや免疫系と関わる
腸内細菌やその代謝物は腸管バリアの維持や免疫系の調節などにも関わっています。
腸内細菌と私たちの体はお互いに影響し合っています。

腸内細菌は人によって違う
私たちの腸内細菌は十人十色。ひとつとして同じ構成なんてありません。
健康な人同士でも腸内にどのような種類&どれくらいの量の細菌が存在するかには個人差があります。
このような違いは食事や生活習慣、生活する地域、遺伝・生理的背景などの様々な要因が関係していると考えられています。[2]
興味深いのは「存在する菌が違っても、働きには共通点がある」ということです。
Human Microbiome Projectでは健康な人の間で微生物の種類や量には大きな違いが見られた一方で、微生物が持つ代謝経路には菌の構成ほど大きな違いが見られませんでした。[3]
つまり腸内環境を考えるときには「どのような菌がいるか」だけでなく、「腸内細菌全体として何をしているか」という視点が必要です。

「善玉菌・悪玉菌」だけでは語れない
腸活では「善玉菌を増やして、悪玉菌を減らしましょう」とよく言われます。
「善玉菌・悪玉菌」という分け方は、腸内細菌の働きをわかりやすく理解するには便利です。
ただし実際の腸内細菌の世界は「良い菌」と「悪い菌」だけできれいに分けられるほど単純ではありません。
同じ菌でも腸内の環境や他の菌との組み合わせ、食事などによってその働きや私たちの体への影響は変わる可能性があります。
また健康な人の腸内にも条件によっては病気につながる可能性のある菌が存在します。
そのため特定の菌だけを見て「この菌が多いから健康」「この菌がいるから悪い」と判断することはできません。[4]
腸内環境を考えるときには特定の「善玉菌・悪玉菌」だけではなく、腸内細菌全体の構成や働きを考えることが大切です。
「多様性が高い=健康」なの?
腸内細菌について調べるとよく「腸内細菌の多様性が大事」という言葉をよく目にします。
実際に腸内細菌の多様性が低いことと、さまざまな病気との関連を報告した研究があります。
では腸内細菌の種類は多ければ多いほど健康なのでしょうか?
結論から先に言ってしまうと「多ければ多いほど健康」と単純に考えることはできません。
腸内細菌の多様性が高いことがそのまま健康な腸内環境を意味するわけではありません。
腸内細菌は複雑な生態系です。
腸内環境を考えるには多様性だけではなく、菌同士の関係や安定性、構造、どのような働きをしているかなど様々な視点が必要です。[5]
「多様性が高い」だけでは健康な腸内環境であるとは言えないのです。
腸内細菌は食事で変えられる?
ここまで読んで「善玉菌・悪玉菌の数や腸内細菌の多様性だけで腸の健康を判断できないなら結局、何が正解?」と思うかもしれません。
ここで少し見方を変えましょう。
今までも紹介してきているように食事は私たちの腸内細菌の構成や働きに影響を及ぼす因子の一つです。
腸内細菌はずっと同じ状態で固定されているわけではありません。
健康な成人に動物性食品中心の食事と植物性食品中心の食事をそれぞれ短期間摂ってもらい、腸内細菌がどのように変化するかを調べた研究があります。
その結果、食事を変えることで腸内細菌の構成や遺伝子発現が変化し、短期間の食事の変化でも腸内細菌が素早く反応することが示されました。[6](※ただし、これは「数日間食事を変えるだけで健康な腸内細菌叢が作れる」という意味ではありません。)
私たちの腸内細菌は食事などの生活環境によって変化しうる存在であるということです。
今日からできること
腸内細菌は人によって異なります。
善玉菌・悪玉菌の多い少ないだけで腸内環境の良し悪しを決めることはできません。
同様に腸内細菌の多様性だけでも腸内環境の良し悪しを決めることはできません。
しかしながら食事の内容を変えることで短期間でも腸内環境を変化させることができると学びました。
そこで私がおすすめしたい今日できること…
それはいつもの食事に「植物性食品を1つ足すこと」ということ。
野菜、果物、豆類、全粒穀物、きのこ、海藻、ナッツ類などの植物性食品を毎食1品プラス。
まずは無理なく続けられる「1品足す」から始めてみましょう。
まとめ
今回は「腸内細菌とは?」をテーマに、健康な腸内細菌叢について解説しました。
腸内細菌について大切なポイントをまとめると
- 腸内細菌は食べ物を利用して様々な代謝物を作り、私たちの体と関わっている。
- 腸内細菌の構成には大きな個人差があり、健康な人でもそれぞれ違う。
- 「善玉菌・悪玉菌」だけでは腸内環境の良し悪しを判断することはできない。
- 腸内細菌の多様性は大切な指標の一つだが、「高ければ高いほど健康」とは限らない。
- 腸内細菌は毎日の食事によって常に変化を続ける。
つまりは「この菌がいれば健康」というようなすべての人に共通するような正解はありません。
難しく考えすぎず、まずはいつもの食事に植物性食品を「1品足す」ことから始めてみましょう。
①Shanahan F, Ghosh TS, O’Toole PW. The Healthy Microbiome-What Is the Definition of a Healthy Gut Microbiome? Gastroenterology. 2021; PMID: 33253682.
②Lloyd-Price J, Abu-Ali G, Huttenhower C. The healthy human microbiome. Genome Med. 2016; PMID: 27122046.
③Human Microbiome Project Consortium. Structure, function and diversity of the healthy human microbiome. Nature. 2012. PMID: 22699609
④Berg G, Rybakova D, Fischer D, et al. Healthy microbiome-a mere idea or a sound concept? Trends Microbiol. 2023; PMID: 36426891.
⑤Johnson KVA, Burnet PWJ. Microbiome: Should we diversify from diversity? Gut Microbes. 2016; PMID: 27723427.
⑥David LA, Maurice CF, Carmody RN, et al. Diet rapidly and reproducibly alters the human gut microbiome. Nature. 2014; PMID: 24336217.


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