「腸内細菌の多様性は高いほど健康」
腸活について調べていると、このような文言を見かけることがあります。
健康な人と病気の人の腸内環境を比較した研究で、病気の人の腸内細菌の多様性が低下しているといった報告も実際にあります。しかしすべての病気で同じ傾向が見られるわけではありません。[1],[2]
腸内細菌の多様性は高ければ健康と本当に言えるのでしょうか?
実は多様性が高いことだけで腸内環境の健康状態を判断することはできません。
この記事では「腸内細菌の多様性」の基本的な考え方から、健康との関係、食事による影響まで科学的な研究をもとにわかりやすく解説していきます。
腸内細菌の多様性とは?
腸内細菌の多様性とは、腸内にどれくらいの種類の細菌がどれくらいの存在割合で分布しているかを示す概念です。
多様性を理解する上で重要なのが「豊富さ」と「均等さ」という2つの要素です。[3]
多様性を決める「豊富さ」と「均等さ」
①豊富さ(Richness)
腸内に存在する細菌の種類がどれくらい多いかを表します。
例えば、50種類の菌が存在する腸内環境よりも、100種類の菌が存在する腸内環境のほうが、種類の豊富さは高いと言えます。
②均等さ(Evenness)
それぞれの細菌がどの程度均等な割合で存在するかを表します。
例えば、腸内に100種類の菌が存在している場合でも、すべての菌がほぼ同じ割合で存在している状態と、一部の菌が大部分を占める状態とでは均等さが異なります。
もちろん前者のほうが均等さが高くなります。
つまり腸内細菌の多様性を考えるときには、細菌の種類が多いかどうかだけでなく、それぞれの存在割合にも注目する必要があるのです。
α多様性とβ多様性の違い
腸内細菌の研究では、多様性を評価するために「α多様性」と「β多様性」という2つの概念が用いられます。
①α多様性
1つの腸内細菌叢の中に、どれくらい多様な細菌が存在しているかを表します。
例えばある人の腸内細菌の種類や存在割合を調べ、その人の腸内環境の多様性を評価する場合に用いられます。
②β多様性
異なる腸内細菌叢の間で、腸内細菌の構成がどの程度異なっているかを評価する場合に用いられます。
例えばAさんとBさんの腸内細菌叢を比較したり、同じ人の食事介入前後で菌叢構成がどのくらい変化したかを調べたりする場合に用いられます。
要するにα多様性は「1つの腸内環境の中の多様性」、β多様性は「異なる腸内環境同士の違い」を評価するために用いられる概念です。
Shannon(シャノン)指数
腸内細菌の多様性を数値化した指標に「Shannon(シャノン)指数」というものがあります。
Shannon指数は細菌の種類の豊富さとそれぞれの存在割合の均等さを両方反映します。
例えば100種類の菌が100個ずつ存在するとしましょう。
この状態はすべての細菌が同じ割合で存在しているため、均等さは最大となります。
では、このうち1種類だけが100個から200個に増えたらどうなるでしょうか?
細菌の種類は100種類のままなので豊富さは変わりません。
しかし、1種類だけ存在割合が高くなるので均等さはわずかに低下します。
その結果、Shannon指数もわずかに低下するのです。
このように特定の細菌が増えることと、腸内細菌の多様性が高まることは同じではありません。
ではなぜ腸内細菌の多様性と健康の関係が注目されているのでしょうか?

腸内細菌の多様性×健康
腸内細菌の多様性が健康にどのような影響を及ぼすのか?
結論から言うと、「多様性が高い=健康」とは必ずしも言えません。
2019年に発表された27研究・41件の比較を対象とした解析では、30件(約73%)で健常者と疾患群などの間に、多様性の統計学的に有意な差が認められませんでした。[1]
一方、2024年に発表された36研究・6,314検体の解析では、多くの疾患で多様性が低下していたものの、一部の疾患では逆に多様性が高くなったことが報告されています。[2]
このように研究によって結果は異なり、疾患の種類によっても多様性の変化は一様ではありません。
つまり腸内細菌の多様性は健康との関連を調べる指標の一つとなっていますが、多様性の高さだけで健康状態を判断することは難しいのです。[4]
腸内環境を理解するためには多様性だけでなく、どのような細菌が存在し、どのような働きをしているかという視点を持つことも大切です。
腸内細菌の多様性×食事
腸内細菌の多様性は普段の食事によって変化するのでしょうか?
腸活しているよく登場する食物繊維や発酵食品。
これらの食品が必ずしも腸内細菌の多様性を高めてくれるとは限らないようです。
では実際に研究結果を詳しく見ていきましょう。
腸内細菌の多様性×食物繊維
2018年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、食物繊維の摂取によってビフィズス菌や乳酸菌などの増加が認められた一方、α多様性には全体として統計学的に有意な変化が認められませんでした。[5]
さらに2024年に発表された複数の食物繊維介入研究の再解析では、短期間の食物繊維摂取によってα多様性が低下する傾向があると報告されています。[6]
つまり食物繊維によって特定の細菌は増えても、腸内細菌全体の多様性が高まるとは言えないようです。
腸内細菌の多様性×発酵食品
2021年に発表された研究では、健康な成人を対象に食物繊維を多く摂取するグループと、発酵食品を多く摂取するグループを比較しました。[7]
その結果、発酵食品を多く摂取したグループではα多様性が増加した一方、食物繊維を多く摂取したグループでは有意な増加は認められませんでした。
また発酵食品を多く摂取したグループでは一部の炎症関連指標の低下も報告されています。
これらの研究から食事によって腸内細菌叢は変化するものの、多様性への影響は食品の種類や摂取条件によって異なることがわかります。
多様性を高めることだけを目指すのではなく、いろんな食品をバランスよく取り入れることが大切です。
まとめ
今回は腸内細菌の多様性について、健康や食事との関係を論文をもとに解説しました。
この記事で押さえておきたいポイントは3つ!
- 腸内細菌の多様性とは、細菌の種類の豊富さと細菌の存在割合の均等さを反省した指標である。
- 多様性と健康には関連が見られるものの、多様性が高ければ健康とは限らない。
- 食物繊維や発酵食品は腸内細菌の多様性に影響するが、必ずしも多様性が高まるわけではない。
繰り返しになりますが、腸内環境を理解するためには多様性だけではなく、どのような細菌が存在し、どのような働きをしているかという視点も大切です。
多様性ばかりにとらわれ過ぎずに、毎日の食事を通じて無理のない腸活を続けていきましょう。


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